手持ち火器の設計論
「設計を学ぶなら兵器から。」これは私の常からの持論です。兵器というものは目的がシンプルで、華美な装飾など無駄な個性を市場にアピールする必要もないので、設計思想というものがダイレクトに反映される傾向にあります。また、特に手持ち火器(銃やライフルなど)の場合、人間が手に持って運用するという前提から当然大きさや重量に制限があります。また操作やメンテナンス、消耗品や部品の規格といったものにも配慮が必要です。そのような多くの制約の中で様々な工夫を凝らして設計・開発されたものは、ものづくりや新製品の開発をする場合の設計の大きなヒントになるのではないかと考えます。兵器に変にシンボリックな意味を持たせず、ただのツールとして割り切って当記事を読んでいただければ、ありがたいと思います。
モジュラー構造
参考画像はSIG SAUER(シグ ザウアー) P320です。米軍にM17/M18として制式採用され有名になりました。見ての通りグリップ部分が、手の大きさや好みに応じてパーツが簡単に換装できるようになっています。また、グリップだけでなく様々なパーツが換装可能です。また一部パーツは前モデルのP250と共用もできます。このように各パーツをモジュール化することによって、分解も容易でメンテナンス性が高められています。このようなモジュラー構造による拡張性の高さも近代的な銃の特徴でもあります。
さらに銃口下部にギザギザがついています。これはピカティニー・レールといってオプションパーツの取付け機構です。このようなレールにはいくつか規格があって、規格が合えばメーカーの純正品だけでなく、サードパーティー製のオプションパーツを取付けできます。ちなみにどんなオプションパーツをつけられるのかですが、ライトやレーザーポインター、ナイフといったものがあるようです。
つづいて、H&K HK416(ヘッケラーアンドコッホ HK416)です。こちらのアサルトライフルにもピカティニー・レールがついていますね。ハンドガード(前側のグリップ)も着脱や位置の調整ができます。上部のレールにはサイト(照準装置)が取付けられています。アサルトライフルには大きく分けて、旧ソ連のAK47の流れをくむAK系とアーマライト社のAR-10の流れをくむAR系の2系統あります。
AR系は構造上HK416のように上部をフラットにすることができます。ということは長いレールを設置してオプションパーツの取付けが容易になります。特にサイトの進化は著しく、大型サイトなどはARプラットフォーム(ARっぽい構造のアサルトライフル)でなければ取付けが難しいものもあるのではないでしょうか?そのせいか近代的なアサルトライフルはだいたいARプラットフォームとなっています。拡張性の高さは規格競争を一気に塗り替えてしまうものなのかもしれません。
ポリマー素材
ポリマー素材を用いたハンドガンと言えばグロック(Glock)を思い浮かべる方も多いと思います。映画ダイハード2でテロリストが空港の手荷物検査をすり抜けてグロックを持込むというシーン、プラスチック製だからX線に映らないという台詞もありました。しかしながら、グロックにも金属部品はあり、さらにポリマー部分には造影剤が添加されているため、普通にX線に映ります。
従って上記のような目的でポリマー素材を用いているわけではなく、軽量化のため、そして耐腐食性を期待しているのです。さらに一口にポリマー素材といってもプラスチックやゴムのようなものなど様々で、高度や耐熱性を高めたりと部位によって特性を持たせることもできます。銃器もそうですが、身近な例をあげると、一昔前は鋏のグリップは金属そのままであったり、鋸のグリップは木製が当たり前でした。ゴム素材のようなグリップの方が滑りにくく手になじみそうなのは想像に難くないですね。私の地元には製品のグリップ部分にいち早くポリマー素材を用いて大成功した企業もあります。グリップ部分に限らず、近代的なハンドガンやアサルトライフルにはそれぞれの部位に応じたポリマー素材がふんだんに使われています。ちなみに最近は銃本体だけでなく薬莢がポリマー製の銃弾もあるようです。
両手対応(ambidexterity)
参考画像はFN SCAR(FN スカー:FN Special operations Forces Combat Assault Rifle:特殊部隊用戦闘アサルトライフル)です。SOCOM(アメリカ特殊作戦軍)で採用されています。近代アサルトライフルの代表格のように言われており、前々項でお話ししたピカティニー・レールもついていますし、前項でお話ししたポリマー素材もふんだんに用いられています。もちろんARプラットフォームです。
アサルトライフルには実に様々なスイッチやレバーがついています。例えば、マガジンキャッチ(弾倉を固定する装置。弾倉を取り外すレバーを兼ねる場合が多い。)やセレクター(セミオート・フルオート切替えスイッチ。安全装置スイッチを兼ねる場合が多い。)、チャージングハンドル(ガチャってして弾を送るレバー)といったものがあります。FN SCARではマガジンキャッチとセレクターは左右両方から操作でき、チャージングハンドルは左右に付け替え可能となっています。
このように近代的なアサルトライフルは左右どちらで構えても使いやすい(ambidexterity:アンビって略したりする)ように設計されています。それってユニバーサルデザインですよね。
さいごに
少し長い記事になりましたが、いかがでしょうか?銃器に限らず、手に持って使うツールというものは世の中にたくさんあります。また銃器のように昔からあるようなツールでも工夫を凝らしてモダナイズ(近代化)できるものもたくさんあるのではないでしょうか。ものづくりや製品開発に行き詰まった際のヒントとして少しでも当記事がお役に立てましたら幸いです。